今回は訪問診療をサポートしてくれる「人材」に関して。
私が丸3年やってきて、各職種に必要だと思ったスキルをまとめました。
まだ3年ではありますが、私なりに懸命に取り組んだ結果、院内の診療を続けていたら得られなかったであろう経験をたくさんさせてもらいました。
今まで「準備するもの」シリーズを計3編あげましたが、結局「人材」が一番重要だと思います。
特に助手さんは、院内とは違ったスキルを求められるので要チェックですが、これから訪問診療に臨もうかと考えている歯科医師の先生方にもぜひお伝えしたい内容です。
歯科医師
院内の治療は一通りこなせることが条件です。
この「一通り」の基準が難しいですが、標準的なレベルでいいのではないかと個人的には思います。
スキルがあればより良いのは義歯。やはり義歯作成や調整の依頼はかなり多く、難症例が多いです。
嚥下に関してはあまり依頼がかからないクリニックもあるでしょう。病院や在宅診療の医科のクリニックと提携することができるなら、依頼が増えるかもしれません。
嚥下に関してはかなり専門色が強いので、専門の先生を雇うのが一番確実で手っ取り早いと思います。
訪問診療の歯科医師に患者さんが求めるものは、スキルもありますが、個人的には「優しさ」 「思いやり」ではないかと思います。
自分の体が思うように動かなくなって、色々な人の助けを借りなければ生きていけない。その状況を自分に置き換えて考えられる想像力があるか、ということです。
ましてや歯科治療は怖い印象を持っている患者さんが多いですので、少しでも前向きに治療を受けてもらうために、患者対応は院内同様とても重要です。
必ずしも毎回やれ、ということではありませんが、歯科医療以外のことでもご本人が困っていそうなこと、助けを求めていると考えられることは積極的に助けに行きましょう。
求められないからいいや、ではなく、求めていないか?と常にアンテナを張っておく。
ご本人は体調が悪くて言葉を発さないだけかもしれません。遠慮しているかもしれません。
具合が悪そうならベッドに横になってもらう、配膳を手伝う、手が届かないところにあるものを取ってあげる、足元にあるつまづきそうなものをどけて通りやすくする…
「治療しに行く」というより「人を助けに行く」くらいの気持ちで私は訪問診療に臨んでいます。
歯科衛生士
訪問の場合、歯ブラシ等による口腔ケアがメインのお仕事になります。
院内しか経験のない衛生士さんだと、経口摂取をしていない口腔内が乾燥痰だらけの患者さんのケアの方法が分からないこともあると思うので、ドクターが教える必要があるかもしれません。
また、訪問では口腔内が見にくいのでう蝕などを見落とすことがあります。ドクターと衛生士の両方が都度チェックすると見落としが少ないと思います。
朝の器具の準備をするのも衛生士さんが中心になるクリニックも多いと思います。
忘れ物をして時間のロスが発生するのはもったいないですので、衛生士さん、コーディネーターさんが準備しやすいようマニュアルや導線を工夫しましょう。
コーディネーター
コーディネーターは助手兼ドライバーの人で、訪問診療の場合は各所方面に電話したり書類を送ったりする必要があるのでそういった仕事もしてもらいます。
また、コーディネーターの重要な仕事の一つがアポ管理です。患者の数が増えてきて居宅が多い場合は、効率のいいルートかつ患者さんの都合のいい時間を考慮してアポを組む必要があります。
ポータブルユニットなど、物によっては重い機材もあるので、非力な人は厳しいです。
車の運転をするので、まず運転ができること、土地勘がある人ならなお良いです。アポイントを組む際に、移動ルートと所用時間が分かることはとても重要です。
衛生士、コーディネーターも患者さんに思いやりを持って対応できるようにしましょう。
いずれの職種も家が少し汚くてもたじろがないことが大事です。
家の汚さや処置の環境が悪いことが気になる人にとってはかなり辛い仕事です。
世の中にいろんな人がいること、その人生を垣間見れることを喜ぶマインドがある人が向いていると思います。
仕事をする上で気をつけるべきこと
マナーについて
患者さんの居宅では基本トイレを借りないようにしましょう。
患者さんの家のものは基本的に使わず、洗面所や床などを汚したら綺麗にする、移動させたものは元に戻す、ゴミも持ち帰りましょう。
当然と思われる人も多いと思いますが、「知っているだろう」で済まさずにマニュアルとして訪問に出るスタッフ全員に伝えましょう。
トイレに関しては衛生士さんやコーディネーターさんは大学で習ったり先輩から教わったりしているので、意外とドクターがやりがちです。
自分以外のドクターに訪問診療をお願いする場合は一応一言言っておいた方がいいかと思います。
身体を大切に
訪問診療は無理な姿勢をしなければならない場面が多いので、職種によらず腰痛持ちが多いです。
私の職場の一つは福利厚生で整体がついているクリニックまであります。
私も訪問診療のバイトを始めて3ヶ月でギックリ腰になり、一時期クセになって苦労しました。整形外科でヘルニアを指摘されています。
現在は整体に通ってギックリ腰になることはなくなりました。私は体が軟らかいのでつい腰を曲げがちなのですが、なるべく腰を曲げずに膝を曲げるように心がけています。
また、腎臓や膀胱にも気をつけて下さい。
トイレに行きにくいことから尿意を我慢したり、水分を飲まないようにしたりして腎臓や膀胱を傷めたスタッフがいました。
特に夏の訪問診療で水分を制限すると熱中症の危険もありますし、水分もトイレも我慢はしないようにしましょう。
あくまで私の3年間の経験からの情報ではありますが、院内診療しかやっていない先生方だと知らないこともあるのではないかと思い、書かせていただきました。
訪問診療は少人数で車内も含めて一緒にいる時間が長く、スタッフ間の仲の良さがチームの雰囲気に直結します。チームスタッフ全員が心地よく仕事できるよう、まずスタッフ同士がお互いに思いやること。その思いやりがチームの雰囲気として患者さんにも必ず伝わります。
「準備するもの」シリーズが訪問歯科を始めるクリニックのお役に少しでも立てたら嬉しいです。