訪問歯科医えるさの日記

フリーランス訪問歯科医が診療していて気づいたことを書いています。

【医療・介護職も要チェック】意外と知らない「誤嚥性肺炎」のキホン

誤嚥性肺炎」という言葉は聞いたことがあると思います。

 

今回は嚥下に関する基本的な知識から、あまりフォーカスされないものの基本的な考え方として重要なことまで、一般の方も専門職の方も分かりやすくタメになる内容にしたいと思います。

 

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「飲み込む」とは?嚥下のしくみ

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「飲み込む」=嚥下(えんげ)は以下の5つのステップが連続して起こることです。

①食べ物を認識する先行期

②食べ物を口に入れ、よく噛んで唾液と混ぜてドロドロの一塊にする準備期

③食べ物を口から咽頭に送り込む口腔期

咽頭から食道入り口に送る咽頭

⑤食道を通して胃まで送る食道期

 

例えばアルツハイマー認知症の方は①の先行期障害から出現することが多い(例:エプロンの柄を食べ物と間違えてしまう、介助しても食べ物を口に入れてくれない)ですが、④の咽頭期は終末期まで良好であることが多いと言われています。

 

歯が無くなっても入れ歯を入れずに食べている人は、よく噛めていないので②の準備期が不良であると考えられます。

 

皆さんご存知の通り、誤嚥」とは食べたものが気管に入ってしまうことです。誤嚥の直接的な原因は、④の咽頭期で流れてきた食べ物を全て食道に送ることができず、一部が気管に入ってしまうことですが、そうなってしまう理由はその前の①〜③にもあります。また、⑤の食道期で食べ物が逆流してしまい、逆流したものが気管に入って誤嚥することもあります。

 

そのため、嚥下に関する診断では①〜⑤の全てを見て原因を判断する必要があります。

 

むせ≠誤嚥

「むせる」のは人間の正常な反射の一種です。

 

食物が誤って気管の方に入りかけた時、気管の奥まで入っていかないよう未然に防ぐための反射です。図でいえば気管の入り口である声帯やその近くに食べ物がつくと反射が起こります。嚥下障害のない方でもむせることはあります。

 

逆に、むせていないのに誤嚥している人もいます。むせない誤嚥を「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」と言います。

この不顕性誤嚥は他人から見て誤嚥していることが判断しにくいため、誤嚥してむせる方より肺炎になるリスクが高いといえます。

 

誤嚥しかけてむせる方もいますが、それが全員ではないということです。

 

しっかり「むせる」力(喀出力)をつけることは誤嚥せずに食べるために重要なポイントです。

 

誤嚥したら必ず誤嚥性肺炎になるわけではない

誤嚥」をした人が全員すぐに「誤嚥性肺炎」になるわけではありません。

健康な人でも誤嚥していることはあります。それでも肺炎にならないのは免疫力があるからです。

 

この「免疫力」という観点は嚥下を診ていく上で非常に重要です。

 

嚥下機能検査の依頼を受けた場合、先ほどの嚥下の①〜⑤のステップを診て改善すべき点を判断します。そして対処法や機能改善のための訓練=リハビリのメニューを考えます。

 

患者さんの状況に合わせて訓練メニューを考えていきますが、口から食べながら訓練していく場合、痩せていて免疫力がない方は少しでも誤嚥すると肺炎になるリスクが高いため、あまり積極的な方針は立てられません。

 

またリハビリとは筋トレでもあります。栄養がしっかり取れていなければ、いくら筋トレをしても筋肉はつきません。むしろ消耗してしまいます。

 

本来はもっときちんとした計算式があるのですが、ものすごくざっくり計算するならば

体重(kg)×30 (kcal)

が1日の摂取目安です。例えば体重40kgなら 40kg×30=1200kcal/日 となります。

(もう少しきちんと調べたい場合は「ハリスベネディクトの式」で検索してみてください。最近はスマホ用アプリもあります)

 

嚥下の往診依頼で在宅の場合に特に多いのが

食べる量が少ない→筋肉量が落ちる(サルコペニアが進む)→嚥下機能が落ちる

の無限ループにハマっているパターンです。

この場合、私がまず最初に提案するのは栄養量を増やすことです。具体的には補助栄養食品の提案などです。

 

なるべく少ない量で、なるべく多くの栄養量が取れるよう、最近は様々な会社が工夫して補助栄養食品を販売しています。味も工夫されていて、美味しいものもたくさんありますよ。

「介護食 通販」などで検索するとたくさん出てきますので試してみてください。

 

オススメの介護食についてはまた今後お話しようと思います。

 

誤嚥チェックリスト

嚥下障害のリスクが高い症状を箇条書きにしてみました。当てはまるものはありますか?

  1. 原因不明の微熱が続いており、黄色っぽい痰が出る
  2. 食事で毎回むせる
  3. 話している時にうがいをしているようなガラガラ声になる
  4. 理由はわからないが食事に時間がかかるようになった
  5. 最近急激に痩せた(半年で5%以上/ 40kgで2kg)
  6. げっぷがよく出る

 

1〜4は現時点で嚥下障害が疑われる症状です。

3は湿性嗄声(しっせいさせい)と言って、気管の入り口である声門に液体や唾液などが垂れ込んだ状態で話すとガラガラうがいをしているような声になります。

4は嚥下の5つのステップの②や③に問題がある可能性があります。歯がない場合以外にも舌の動きが悪い方も②や③に障害が出ます。

 

5と6は現時点で嚥下障害がなくても今後出てくる可能性がある症状です。

5は先ほどお話しした“無限ループ”にハマる可能性が高いです。一日に取っている栄養量を概算して、足りない分をおやつなどで補う工夫をしてみましょう。

6は嚥下の5つのステップの⑤に問題がある可能性があります。げっぷは食道から口に向かって空気が上がってきて起こります。空気だけでなく食物も上がってきた場合はそれを誤嚥してしまう方もいます。口に酸っぱいものが上がってくるなど、逆流性食道炎の症状がある場合は一度内科の受診をお勧めします。

 

 

 

いかがだったでしょうか?

少しでもお役に立てる情報があったら幸いです。

嚥下に関しては今後も様々な情報をあげていく予定ですので、今後もみていただけると嬉しいです。