訪問歯科医えるさの日記

フリーランス訪問歯科医が診療していて気づいたことを書いています。

【医療・介護職も要チェック】要介護者の口腔ケアのコツとオススメグッズ

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要介護の人への口腔ケアは大変ですよね。

我々専門職でも大変な患者さんはいますので、一般の方が大変なのは当然です。

大変だし、やらなきゃダメなのは分かっているけど他にもやることあるし…なんて思っているうちに後回しになっていく…

今回はそんな口腔ケアを少しでもやりやすくできるよう、コツやオススメ物品をご紹介します。

 

 

汚れが残りやすい場所

要介護の患者さんにおいて、汚れが残りやすく注意してもらいたい部分は

・上の前歯の裏側

・頬と歯の間(口腔前庭)

・舌

です。

歯と歯の間とかももちろん残りやすいんですが、今回は一般の方、歯科以外の職種の方向けに書いているので、細かいところよりは「汚れが溜まりやすい場所」 「見落としがちな場所」という観点で上記を挙げました。

 

以下で患者さんのタイプに合わせて口腔ケアのポイントを説明していきます。

 

①口から食べていて自分で磨けるor介助者の指示に従える方

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注意すべき部位(頬と歯の間、歯と歯茎の境目)

お口から食べている方は、先ほどのポイントの頬と歯の間は全員溜まりやすいので注意しましょう。特に上の歯の奥の方に残りやすいです。

上の奥歯の外側はお口をあまり開けないようにした方が歯ブラシを入れやすいです。

 

歯がたくさん残っている方は、歯と歯茎の境目の汚れをできるだけ取るようにしましょう。虫歯になりやすい場所で、虫歯が大きくなると抜歯になりやすい部位なので気をつけて下さい。

 

弱めの力で小刻みに動かすのがポイントですが、難しければ電動歯ブラシを使ってみるのもいいと思います。

ただ電動歯ブラシは普通の歯ブラシより重く、上手く使えない方もいるので、合うかどうかまず試してみる必要があります。

選ぶポイントは、高機能なことよりも軽さ、持ちやすさ、ヘッドの小ささです。数分持ち続けても疲れず、奥まで入れやすい小さいヘッドのものがいいです。

 

またも汚れが溜まりやすいです。舌の上がピンクではなく白〜黄色っぽい色、もしくは黒っぽければ汚れが付いています。

汚れがたくさんついている場合はブラシで優しく汚れをかき取るようにして下さい。ブラシを使うのが怖ければウェットティッシュで拭うのでもいいです。

 

歯も舌も奥に入れすぎるとオエッとなる人もいます。これは患者さんによってなりやすい人、なりやすいポイントが違うので、本人の様子をよく見て無理なくケアしましょう。

 

また、舌に汚れが多くついているのは舌の動きが弱くなっている証拠です。食べるのに時間がかかっていませんか?嚥下機能のチェックをしてみてもいいと思います。

 

②口から食べていて介助者の指示に従えない方

汚れが溜まる場所は①の方と同様ですが、拒否がある場合は上手く磨けないと思いますので、頬と歯の間の汚れを可能な限りかき出すようにして下さい。ブクブクうがいができる人はブクブクを3回くらいやれば、大きい食べカスは取れます。

 

うがいができない場合は、湿らせたスポンジブラシかウェットティッシュを人差し指に巻きつけて頬と歯の外側を優しくなぞりましょう。

ポイントは「ゆっくり」 「優しく」やることです。痛がられていつも上手くいかない方は、歯に沿わせて「ゆっくり」動かすのを心がけてみて下さい。

歯ブラシを入れられる場合は歯ブラシで磨き、スポンジブラシかウェットティッシュで拭き取るとだいぶ綺麗になります。

 

もちろん歯の裏側もやれるに越したことはありませんが、口を開いてくれない場合は無理せず、外側だけでもキレイにすることを心がけて下さい。

 

口を一瞬でも開けられる場合は、口を開けた状態を保つために大きいガーゼやウェットティッシュを2〜3枚重ねて指2本分くらいの大きさに折って丸め、奥歯のあたりに差し込みましょう。

つっかえ棒の役割をしてくれて、歯の裏側を磨きやすいと思います。

 

③口から食べていない方

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注意すべき部位(上の前歯の裏側)

お口の粘膜は常に新しく作り替えられているので、何も食べていなくても汚れや古くなった粘膜(痂皮 かひ)が溜まります。

また、痰がよく出る方は口まで上がってきた痰が乾燥してこびりついていることもあります。

 

特に上の前歯の裏側に残っているのを見落としているケースが多いので気を付けましょう。

乾燥して固まっている場合は無理に剥がさず、口腔ケア用のジェルを塗布して、他の部分を磨くなどして少し置いてふやかすと取れやすくなります。

舌にも乾燥痰や汚れが付着して固まりやすいので注意しましょう。固まってしまった場合の対応は同じです。

 

口腔ケアグッズの選び方

歯ブラシ

まず全体的に大きな汚れを取るために使います。

 

舌についた汚れ(舌苔:ぜったい)を取るときは、舌が傷つかないようそっと表面をなぞるように動かしましょう。

 

舌の汚れを取るには舌ブラシが一番使いやすいのですが、単価が高めなことと、モノが増えると管理が大変ですし、色々使うのは面倒で結局使わない、となるのは避けたいので、あるものを活用するのでもいいよ、という意味です。

 

歯ブラシはごく普通のフラットなもの、硬さもふつうのものがいいと思います。ヘッドは小さめだと小回りがきいて使いやすいです。弱い力で小刻みに動かすのを心がけて下さい。

 

電動歯ブラシについては先ほど書いたとおり、高機能なことよりも軽さ、持ちやすさ、ヘッドの小ささを優先して選んで下さい。

 

歯磨き粉

歯が比較的残っていてうがいができる方は、市販の歯磨き粉でフッ素が入っているものを選びましょう。歯と歯茎の境目の虫歯(根面う蝕)を予防する効果があります。

歯科医院専売のものだとフッ素の配合量が多いのでより効果的です。

 

口腔ケア用ジェル

先ほどの③口から食べてない方の乾燥した汚れを落とすのに便利なアイテムです。

私がいつも使っているのは↓の「お口を洗うジェル」

この製品の販売元の方が私の所属する医局に営業に来た際、製品開発時のエピソードを説明して下さいました。

「塗布しただけの時はその場に留まり、歯ブラシなどで擦ると液状になる」という形状を目指して研究し、完成したのがこの製品とのこと。

実際の使用感とまさに一致していたので感心しました。

ふやかす時に塗ったものが液状になって垂れてしまうと、③のような誤嚥の心配がある方には使いづらく、擦った時にはある程度液状になったほうが磨きやすいので、使う人の使い勝手をよく考えてくれていると思います。

値段が高めですが、試せそうな方は是非!オススメです。ほぼ半額で小さいサイズのものもあります。

他の製品をお使いの方も、ケアの手順や方法は先程説明した通りやってみて下さい。

 

口腔ケア用ウェットティッシュ

ウェットティッシュも様々な製品がありますが、私がよくオススメするのは↓のオオサキメディカルのウェットティッシュです。うちの医局でも使っています。

このウェットティッシュの何が良いかというと「味がついている」こと!!

口から食べていない方でも、口腔ケアの時に味付きウェットティッシュでケアすることで、簡単な嚥下機能訓練になります。

味はオレンジ味とイチゴ味の2種類あります。イチゴ味は子供の頃にお医者さんでもらった薬のシロップの匂いに似てるように私は感じるので、個人的にはオレンジ味が好きです(笑)

 

スポンジブラシ

スポンジブラシはうがいができない方のケアをするのにとても便利です。介護を経験したことのある方なら皆さん使っているかもしれません。

 

正直スポンジブラシはあまり商品比較をしたことがないのでこれといったオススメ商品はないのですが、基本的にディスポーザブルで使うものなので、なるべくこまめに替えましょう。

 

また、水で濡らした時は絞って水が垂れないようにして下さい。水が滴る状態だと口に入れた時にその水を誤嚥してしまう可能性があります。

 

入れ歯のケア

基本的なケアの方法は

「ブラシで汚れを落とす」→「使わない時は水に浸けておく」

です。寝る前であれば浸けておくお水にポリデントなどの入れ歯洗浄剤を入れます。

 

よくある間違いで「ポリデントに浸けとけばOK♪」というのがあるのですが、ポリデントはあくまで消毒剤だと思って下さい。入れ歯についた汚れを分解して全て落としてくれる働きはありません。汚れは流水下でブラシでこすって落とす必要があります。

コンタクトレンズをお使いの方ならレンズの洗浄液に「必ずこすって下さい」と書いてあると思うのですが、あれと似ています(コンタクトはタンパク除去の目的ですが)。

 

部分入れ歯なら歯に引っ掛けるところに汚れが溜まりやすく、落とすのを忘れがちなので注意して下さい。

入れ歯にも歯石はつきます。下の入れ歯の真ん中に歯石がついている人が多いので、磨き残しがないように注意しましょう。

 

足りないところは訪問歯科で補おう!

今回の記事は「専門外の人が無理なく続けられる口腔ケア」をイメージして書いています。

歯科の観点で言えばこれだけでは足りない部分もありますので、訪問歯科による専門的な口腔ケアでそれを補うことをオススメします。

 

 過去の記事(訪問歯科でできることは?対象は?費用は? - 訪問歯科医えるさの日記 )でもお伝えしましたが、口腔ケアだけで歯医者を呼ぶのは全然恥ずかしいことでも何でもないので、積極的に活用してほしいと思います。

 

お口のケアはお金の節約にもつながる

最後におまけ的なものを。

私もまだまだ不勉強で知らなかったんですが、残っている歯の本数で年間にかかる医療費がこんなにも違うという情報が載っていました。

歯が0~4本残っている人の年間の平均医療費は54万1,900円、歯が20本以上残っている人は36万4,600円と、その差はなんと17万7,300円にも達します。

口腔ケアをしっかりと行い、高齢者が健康を保つことは、社会全体の問題にもつながっているのです。

https://www.minnanokaigo.com/guide/dementia/prevention/oral-care/

1人年間 17万てすごいですよね。

もちろんこれは歯にかかる金額ではなく全身の病気にかかる医療費です(そんなの分かってるわ!って人は失礼しました)。

国のためももちろんですが、最近は高齢者の自己負担割合も増えましたし、普段からお口の健康に気をつけることは本当に大事なんだなと私も実感しました。

 

今回の記事で、みなさんの口腔ケアが少しでもやりやすくなったらいいなと思います。

今回のものに限らず、記事のシェアは大歓迎ですので、お知り合いの方でも困っている方いたらシェアして下さい〜